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執筆者の写真篠原竜一

川嶋辰彦学習院大学名誉教授

秋篠宮妃・紀子さまの父親で学習院大学名誉教授の川嶋辰彦氏が11月4日、東京都内の病院でお亡くなりになりました。


私は、川嶋先生に二度お会いさせていただいた事があります。その時にお聞きしたウィーンの森の話がとても印象に残っています。


ウィーンの森 (Wienerwald) は、ウィーンを北、西、南と3方向から囲み、広さは約1,000平方キロメートルに及ぶ大きな森ですが、財政難からウィーンの森の森林の大部分を伐採する計画が進められたことがあったそうです。財政難を克服するために森林を伐採することは経済合理性から考えるとそこで暮らす人たちにとっても決して悪い話ではありません。さもなければ増税せざるを得ない状況だったそうです。しかしながら、ウィーンで暮らす人々にとっては、経済面よりももっと大切なものがあったのでしょう。広範囲にわたる市民の反対運動を引き起こしたそうです。そして、その市民の反対運動が政治を動かし、ウィーンの森は、今でもウィーンの人々にとっての大切なレクリエーションの場所になっているそうです。


とても穏やかに周りの反応を見ながら優しい言葉でゆっくり問いかけるようなお話でした。質問に対してはその人の眼をしっかり見ながら真面目ながらもユーモアを交えながらお話する姿がとても印象的でした。特に学生からの質問には嬉しそうに「素晴らしいご質問ですね。ちょっと考えさせてください。」と言いながら丁寧にお答えになっていた事を覚えています。川嶋先生は、「今や自然保護の大切さは一般的に認知されていますが、今から100年以上も前にウィーンの市民たちは、経済的には不利益を被りながらも、将来を見据え、森の保護のために立ち上がったのです」とお話を締めくくりました。


川嶋先生の我々へのメッセージは「様々な社会課題に対して現代に生きる我々が物事の本質を見極める事がとても大切であり、そうすれば自ずとその解決策が見えてくる」という事でしょうか?と私が質問すると、川嶋先生から次のような答えが返ってきました。


「本質を見極める、その通りです。そのためには、問題を一面からではなく、特に経済的な面からだけではなく、様々な観点から考察する事が大切だと思います。。おっと、何か偉そうな事を申し上げてしまいました。お許しください。911では大変なご苦労をされたのですね。今日はとても貴重なお話をありがとうございました。久しぶりに大変楽しい時間になりました。何かお飲みになりますか?」


誰彼と差別することなく丁寧に人に接し、それでいてはっきりと主張する姿は忘れられません。今でも判断に悩む時には川嶋先生の言葉を思いだします。私の人生においてとても大切な事を教えて頂きました。ご冥福をお祈りします。


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