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篠原金融塾 パウエルFRB議長基調講演 ジャクソンホール会合 グローバルマーケットウィークリー 8/22/2025

今年もジャクソンホール会合が始まった。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の基調講演のテーマは、「金融政策とFRBの枠組み見直し」。


パウエル議長は、労働市場は最大雇用に近い水準を維持しており、インフレ率もパンデミック後の高水準から大きく低下している。但し、リスクのバランスは変化しつつあるとの見方を最初に示した。


今年に入っての経済の新たな課題は、1)貿易相手国における関税の大幅な引き上げが、世界の貿易体制を再構築しつつあること、2)移民政策の厳格化は、労働力人口の成長を急激に鈍化させたこと、をあげた。さらに、3)税制、歳出、規制政策の変化は、長期的に経済成長や生産性に重要な影響を及ぼす可能性があり、これらの政策が最終的にどのように定着し、経済にどのような持続的影響を与えるかについては、大きな不確実性が存在するとの見解を示した。


興味深いのは、この貿易と移民政策の変化が、需要と供給の両面に影響を与えており、このような環境では、景気循環的な変化と構造的な変化を区別することが困難だと考えていることだ。パウエル議長は、金融政策は景気循環の変動を安定化させることはできるが、構造的な変化を直接的に変えることはできないと語った。


パウエル議長は、労働市場については、均衡しているように見えるが、それは労働需要と供給の両方が著しく減速した結果としての「奇妙な均衡」だとしている。この異例の状況は、雇用に対する下方リスクが高まっていることを示唆しており、これらのリスクが顕在化すれば、急激な解雇の増加や失業率の上昇という形で、速やかに現れる可能性があると考えている。


今年上半期のGDP成長率は、主に個人消費の鈍化を受け、1.2%と、2024年の2.5%から大きく減速。FRBは、労働市場と同様に、GDPの減速の一部は供給側、すなわち潜在成長率の鈍化を反映している可能性があると考えている。


パウエル議長のインフレに関するコメントは以下の通りだ。


関税の引き上げにより一部の財の価格が上昇し始めている。最新データに基づく推計では、7月までの12か月間でPCE総合価格は2.6%上昇。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPCE価格は2.9%上昇し、前年よりも高い水準。コアの内訳では、財の価格が過去12か月で1.1%上昇しており、2024年に見られた緩やかな下落傾向からのはっきりと転換。一方、住宅サービスのインフレ率は引き続き低下傾向にあり、非住宅サービスのインフレ率は依然として2%の目標水準をやや上回る水準で推移している。関税が消費者物価に与える影響は、今や明確に現れている。今後数か月にわたり、これらの影響が積み重なっていくと予想されるが、そのタイミングや規模には大きな不確実性がある。


金融政策にとって重要なのは、これらの価格上昇が持続的なインフレ問題のリスクを実質的に高めるかどうか。合理的なベースケースとしては、これらの影響は比較的短期的なものであり、価格水準の一時的なシフトにとどまると考えられる。もちろん、「一時的」とは「一度にすべて起こる」という意味ではない。関税の引き上げがサプライチェーンや流通網を通じて経済全体に波及するには、時間がかかる。さらに、関税率は今も変化しており、調整プロセスが長引く可能性もある。


とは言っても、関税による価格上昇がより持続的なインフレ動態を引き起こす可能性もあり、そのリスクは慎重に評価・管理する必要がある。たとえば、実質所得の低下を受けて労働者が賃上げを要求し、それが実現することで、悪循環的な賃金・物価スパイラルが生じる可能性がある。ただし、現在の労働市場は特段逼迫しているわけではなく、下方リスクが高まっている状況を踏まえると、そのような展開は起こりにくいと考えられる。


インフレに関して、もう一つの可能性として、インフレ期待が上昇し、それが実際のインフレ率を引き上げるという展開が考えられる。インフレ率は過去4年以上にわたり目標を上回っており、家計や企業にとって依然として大きな懸念材料となっている。しかし、市場ベースおよび調査ベースの指標に示される長期的なインフレ期待は、引き続きしっかりとアンカーされており、我々の長期的なインフレ目標である2%と整合的な水準にある。もちろん、インフレ期待の安定を当然のものと考えることはできない。いかなる状況であっても、FRBは一時的な物価水準の上昇が持続的なインフレ問題へと発展することを決して許さない。


斯かる状況下、パウエル議長は、インフレに対するリスクは上方に、雇用に対するリスクは下方に傾いており、金融政策の運営は難しい状況だと述べている。


FRBの目標がこのように緊張関係にある場合、金融政策枠組みは、二つの使命の両方をバランスよく考慮することを求めている。現在の政策金利は、1年前に比べて中立水準に100ベーシス・ポイント近づいており、失業率やその他の労働市場指標の安定により、政策スタンスの変更を慎重に検討する余地が生まれている。それでもなお、政策が引締的な領域にあることを踏まえると、基本的な見通しやリスクバランスの変化に応じて、政策スタンスの調整が必要となる可能性がある。金融政策にはあらかじめ決められた進路はない。FOMCのメンバーは、データとその経済見通しおよびリスクバランスへの含意に基づいて、これらの決定を行う。


ショックに直面した際には、インフレの状況が急速に変化し得ることを目の当たりにしたFRBは、現在の金利水準は、世界金融危機(GFC)からパンデミックまでの時代と比べて、かなり高くなっていると認識しているが、インフレ率が目標を上回っている状況下で、現在の政策金利は引締的な水準にあるものの、控えめな引締だと考えている。パウエル議長は、長期的に金利がどこに落ち着くかは確実には言えないが、生産性、人口動態、財政政策、そして貯蓄と投資のバランスに影響を与えるその他の要因の変化を反映して、中立金利の水準は2010年代よりも高くなっている可能性があると考えている。


マーケット参加者が注目したのは、「政策が引締的な領域にあることを踏まえると、基本的な見通しやリスクバランスの変化に応じて、政策スタンスの調整が必要となる可能性がある。」とコメントした部分だろう。9月のFOMCでの利下げ期待が高まり、株式市場は好感、高値を試す展開となり、米国債も買われる展開となって越週。


FRBは非常に難しい局面への対応を求められており、パウエル議長が言う通り、金融政策にはあらかじめ決められた進路はなく、且、インフレ懸念を軽視できる状況にはなく、FOMCのメンバーは、データとその経済見通しおよびリスクバランスへの含意に基づいて、これらの決定を行うわけであり、マーケットの利下げ期待は少し行き過ぎているのではないかと私は思う。


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