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篠原金融塾 日銀による連続指値オペ グローバルマーケットウィークリー 4/1/2022

2月のアメリカの個人消費支出(PCE)物価指数は、前年同月比6.4%上昇、コア指数も5.4%上昇、83年以来の高水準となった。また、金曜日には3月のアメリカの雇用統計が発表されたが、非農業部門の就業者数は前月比43万1000人増と予想は下回ったものの、失業率は3.6%に低下、時間当たり賃金は前年同月比で5.6%の上昇となった。アメリカ経済は引き続き堅調だ。


そんな中、今週最も市場の注目を集めたのは、日銀による連続指値オペだ。指値オペの話の入る前に、そもそもイールドカーブ・コントロール(YCC)とは何か、導入した背景を確認しておこう。


YCCは、2016年9月の日本銀行の金融政策決定会合において、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつとして、これまでの金融政策の総括的検証を踏まえて導入された。短期金利のマイナス金利政策に加え、10年物国債の金利が概ねゼ0%程度で推移するように目標値を設定し、買入れを行うことで短期から長期までの金利全体の動きをコントロールすることを目的としている。そして日銀は、YCCを実施するにあたっては、指定する利回りで国債買入れを行う「指値オペ」を導入した。


YCC導入の背景についての日銀の説明は以下の通りだ。

https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921a.pdf


「量的・質的金融緩和」は、主として実質金利低下の効果により経済・物価の好転をもたらし、日本経済は、物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなった。この実質金利低下の効果を長短金利の操作により追求する「YCC」を、新たな枠組みの中心に据えることとした。その手段としては、マイナス金利導入以降の経験により、日本銀行当座預金へのマイナス金利適用と長期国債の買入れの組み合わせが有効であることが明らかになった。これに加えて、長短金利操作を円滑に行うための新しいオペレーション手段を導入することとした。


当時のことは鮮明に覚えているが、Quantitative and Qualitative Monetary Easing with Yield Curve Controlと英語に訳された時にはとても違和感があったことを覚えている。日銀が国債金利の上限・下限を示すYCCを新たな枠組みの中心に捉えるにもかかわらず、何故Yield Curve Control with Quantitative and Qualitative Monetary Easingと訳さないのだろうと同僚と議論したものだ。


足許日米の金利差が拡大する中、円安が進んでいる。そんな中、日銀は3月28日午後に「指値オペ」を実施、645億円分の国債を買い入れた。午前のオペでは、日銀への売却に応じる金融機関はなかったが、午後のオペでは、日銀への売却に応じる金融機関が現れた。さらに日銀は、長期金利の上昇を抑えるため、31日まで3日間、満期までの期間が10年の国債を対象に、利回り0.25%で無制限に買い入れる「連続指値オペ」と呼ばれる臨時の措置を実施した。29日には、指値オペによっておよそ5200億円分の国債を買い入れたほか、30日は指値オペとは別に予定されていた国債の買入れ措置で当初の2.5倍に増額し、およそ2兆3,000億円分を買入れた。日銀が一連のオペで国債を大量に買い入れた結果、31日の長期金利は一時、0.21%に低下した。


日銀は現状の金融政策の一環として、長期金利をゼロ%程度に、具体的には「プラスマイナス0.25%程度」の変動幅で推移するよう調節するとしている。アメリカの利上げを受け、長期金利の上昇圧力が強まるなか、日銀は長期金利の上昇を抑え込むため、指値オペをはじめ、必要な対応をとるとしている。


なぜ円安が進む中、連続指値オペを実施したのか?


日銀は、経済情勢を以下のように分析している。

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2022/opi220318.pdf


わが国の景気は、感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。個人消費は、持ち直しが一服している。先行きは、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、資源価格上昇の影響を受けつつも回復していくとみられる。輸入原材料価格の高騰等による家計や企業のマインド変化には注意が必要だが、わが国経済は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直していくとみられる。


最近の資源価格上昇により、わが国の交易利得は、2008 年頃と同様、悪化する可能性がある。ただし、今次局面は、感染症の影響による落ち込みからの回復過程にあるほか、いわゆる「強制貯蓄」が家計の実質所得減少のバッファーとして作用することも期待されるため、内需の耐性は 2008 年当時よりも高いとみられる。資源・穀物価格の高騰を受けた物価上昇に対する各国中銀の政策対応により、海外経済が下押しされる可能性がある。


ウクライナ情勢の帰趨は、不透明な部分が多く、その内外経済への影響は不確実性が高い。国内経済には下押し圧力がかかるリスクが懸念される。ロシアによるウクライナ侵攻で不確実性はきわめて大きくなった。資源・食料価格の上昇、地政学的リスクの顕在化は経済に強い下押し圧力をもたらし得る。ロシア等に対する経済制裁を受けて、現地に投資してきた本邦企業の活動が制約を受けているが、モノやお金の流れが滞ることによる影響は時間をかけて発現することから、今後、更に制限や負荷が増える可能性がある点には注意が必要である。


かつては保守的であった年金基金等も、低金利環境下で債券から株式などの高リスク資産に投資先を移してきた。ウクライナ情勢や欧米の金利上昇の影響によりリスク資産価格の大幅な調整が起こる場合には、そうした先にも大きな影響が及ぶおそれがある。


女性や高齢者による労働供給の更なる増加は難しいため、経済の回復とともに中間層の賃金が上昇しやすい環境になっていくとみられる。


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