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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

篠原金融塾 グローバルマーケットウィークリー 12/11/2020

ロックダウンを繰り返している欧州の経済的なダメージは他の地域より大きい。感染拡大が止まらない。今必要なのは財政政策であることは明らかだ。各国政府は財政政策に必要な資金を集めるために国債を発行する。景気が悪化し、それを支えるための資金を集めるために発行される国債の金利は、本来財政の悪化を反映し、どんどん上昇していくはずだが、実際はその逆でどんどん低下している。


何故か?


欧州各国は一大事なので、ECBが金融緩和を繰り返し、公的部門のバランスシートを拡大、ユーロ圏諸国が発行する債券の約4分の3をECBが買っているからだ。その結果、欧州主要3カ国、ドイツ、フランス、イタリアは、政府が借金を増やしているが、2年債の金利はそれぞれ、-0.766%, -0.753%, -0.452%だ。

市場参加者は、このマイナス金利の状況に何も感じなくなってきたようだが、異常事態だ。こうなったらもうやるしかないだろう!というのが今回のECBによる金融緩和ではないでしょうか。


ECBは、緊急債券購入プログラムを1兆8,500億ユーロ(約234兆円)に増額すると発表するとともに、買い入れ期間を当初予定から9カ月延長し2022年3月までとすることを決めた。さらに、金融機関向けに超低金利融資も導入し、新型コロナウイルスが再流行する中で域内の政府や企業を支援する。


10月時点の失業率を見ると、ドイツ4.5%、フランス8.6%、イタリア9.8となっている。若年層の失業率を見ると、ドイツは6.0%と若干高いだけだが、フランスでは20%、イタリアでは30%と若者に働く場所がない状況は変わらない。その一方で金融市場の安定は維持されている。


サッチャー元英首相が生きていたら、「私が言ったとおりでしょ。ユーロは上手くいかない。政策は各国それぞれの状況に併せて行われるべきで、金融政策は自国の中央銀行が行うべきでしょ!」と言われそうだ。


新型コロナのような問題が起きれば、それに対応すべく財政を出動することは当然だ。しかしながら、金融政策については、マイナス金利政策を強化しているにもかかわらず、若者が職に就けないということは、流動性を市場に供給し、マネーサプライを大幅に増やすということは、過剰な資金が金融市場に流れ込み、その価格を支えることには絶大なる効果を発揮するが、実体経済への影響は限られているということだろう。


ECBによる債券購入プログラムが金融市場を支える効果は絶大だ。もはややめられなくなった金融緩和。効果の割にはその副作用はどんどん大きくなる。


じゃあどうすればいいんだよって逆切れするセントラルバンカーがいるかもしれないが、金融緩和をやめて、中央銀行のバランスシートの削減を始めるべきだ。市場金利が上昇し、実体経済に悪影響を与えるという人がいるが、金融緩和をした時にメリットを享受したのは金融資産を保有していた人だ。金融引締をする時にダメージを被るのも金融資産を保有している人だ。新型コロナの影響で資金繰りに影響がある中小企業などへは金利の減免を行えば良い。


普通の人達にとってはむしろ悪くない話だろう。金利が上がれば、普通預金、定期預金に利息が発生する。株はそれほど持っていないのでダメージは少ない。不動産価格はバブル後、アベノミクス前に購入した人たちは、大幅に価格が上昇しているはずなのでいざと言う時には売却すれば良い。市場金利が上がることによるポジティブな影響の方が大きいと私は思っている。


それでもFRBもECBも2022年までは利上げは行わない。過剰流動性が市場を支配する状況は当面続くだろう。


新型コロナについてはイギリスでワクチンの接種が始まった。アメリカでは12日、新型ウイルスによる感染症で新たに3,309人が死亡したことが確認されたが、これは1日当たりの死者数としては世界最多。毎日200,000人以上が感染している。斯かる状況下、専門家委員会は10日、ファイザー製ワクチンについて、ワクチンがもたらす利益がリスクを上回ると結論づけ、緊急使用を許可するよう提言を行った。これを受け、FDAが承認、14日から新型コロナウイルスワクチンの接種が始まる見通しとなっている。


いよいよ世界ではワクチン接種が始まった。心強いニュースだと言って良いだろう。日本人が接種できるのは来年の春ごろらしい。リスクはどのくらいの人に、どんな副反応が出るかということだろう。クリスマスシーズンに向けて市場は閑散になる。昨年の今頃思い描いていた世界とは全く異なる年になった2020年。来年はどんな年になるのでしょうか?


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