篠原金融塾 グローバルマーケット(週次)
パウエルFRB議長は16日、上院銀行委員会向けの証言で、米経済は回復の兆しをみせているものの、新型コロナウイルス流行の影響による深刻な長期的打撃を被る可能性があると述べている。そして、長期的な景気拡大によってある程度縮小した経済的裕福度の格差が広がる可能性があるという。
私が注目したコメントは、「新型コロナが封じ込められたと人々が自信を持たない限り、本格的な回復は見込めない」というものだ。
目に見えない未知の感染症との闘いは、ワクチン若しくは治療薬の開発により、人々が安心しない限り、米経済の本格的な回復はないとFRBの議長が思っているということだ。明らかに市場のプライスアクションより慎重だ。このコメントから読み取れることは、FRBが出来ることは何でもやるという姿勢を当面変えることはないということだ。金融市場は定期的にボラタイルになるものの、FRB議長が慎重であればあるほど、過剰流動性を背景に株も債券も上値を試すことになる。
本当に心配ないのか?
コロナバブルという識者も多い。否定はできない。中央銀行による金融政策が過剰流動性を市場に供給しており、市場を歪めていることに変わりはないので物凄く心配だ。しかしながら、今の状況で金融市場がクラッシュしたらとんでもないことになることを政策当局者が十分に理解しているので、変な話だが、金融市場には安心感が広まり、短期的には大きな心配はいらないだろう。
投資家が頭に入れておいた方が良いことは、経済が再開したというものの、FRBによる2020年末の米失業率予想は9.3%と高止まることだ。FRBの予想では、2021年末には6.5%まで低下するものの、その後の低下のペースは穏やかなものになる。
足許は失業手当の積み増し分もあり、個人消費が順調に回復しているように見える。しかしながら、この積み増しも未来永劫続くものではない。労働市場の改善が進まないと、当然のことだが、個人消費の回復は緩やかなものに留まるだろう。
従って、失業が極めて高水準にあるうちに労働市場が足踏み状態になることがないか注意深く見守る必要がある。失業率が思っているように低下しない場合は、株式市場、社債市場は下値を試す展開となろう。しかしながら、そういう局面ではFRBが追加の政策を打ち出すはずだと思っている市場参加者が多く、値幅の出るボラタイルな展開が予想される。日銀の黒田総裁もパウエルFRB議長同様、必要があれば追加緩和は躊躇なく実施すると述べている。
FRBは、市場よりも慎重だ。過去に経験のない不景気からの回復には、市場参加者が思っているよりも長期間にわたる財政政策と金融政策が必要だと考えているのかもしれない。FRBからのメッセージは、FRBが市場をサポートするから大丈夫だと安心しないで欲しいというものなのかもしれない。
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