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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

篠原金融塾 コンベクシティヘッジ モーゲージ債 グローバルマーケットウィークリー 2/26/2021

いつもは金利の話題となると、金利が上がった、下がったという報道しかされないことが多いが、コンベクシティヘッジという言葉が日経新聞にも登場するくらい米国の金利上昇が話題となっている。今マーケットで言われていることは、デュレーションが長いモーゲージ債を保有している投資家の売りを促し、金利上昇が加速するということだ。MBSの市場規模は約750兆円。日本の投資家に大人気の債券だ。


一番のポイントは金利上昇のペースが速すぎるということだが、そもそもコンベクシティとは何かを理解する前に、デュレーション(資金の回収期間)とは何かを理解する必要がある。


デュレーションとは、金利の変化に対する債券の価格感応度のこと。修正デュレーションといわれるものが代表的な計算方法で、利回り1%の変化に対して債券価格がどのくらい変化するかの割合をいう。単位は年。デュレーションが長いほど、債券は金利変動に対して感応度が高くなり、債券価格の変動がより大きくなる。従って金利上昇時には債券投資家は、長期債を売って、短期債もしくは現金で保有することで、デュレーションを短くする。


しかしながら、金利水準が大きく変化するほど、債券投資家は思っていたより利益が小さい、損失が大きいということが起きてしまうことがある。その理由は、金利水準の変化により債券のデュレーション自体が変化してしまうために起こる。


そこで、デュレーションを補完するために、債券投資家はコンベクシティを使うことになる。コンベクシティとは、利回りの変化に対する債券価格の変化のことで、大きな特徴は曲線であることだ。


モーゲージ債とは住宅ローン担保証券のことで、MBSといわれる債券のことをいう。


米国債利回りが低下すると住宅ローン金利も低下する。住宅ローンの借り手の中にはローンの借り換えをする人が現れる。借り換えが増えるということはMBSが早期償還され、投資家にとっては資金の回収が思っているより早くなることを意味する。デュレーションが短くなるほど、金利低下による利益は少なくなる。


今回報道されている内容はこの逆。米国債利回りが上昇すると住宅ローン金利も上昇する。住宅ローンの借り手でわざわざ高い金利に借り換えする人は少ない。借り換えが減るということはMBSが早期償還されず、投資家にとっては資金の回収に時間がかかることを意味する。デュレーションが長いほど、金利上昇による損失は大きくなる。


モーゲージ債とは、金利が上がったり、下がったりするものの、同じ水準であまり金利水準が動かない時に最大の利益が上がる債券だ。そしてモーゲージ債は、グラフの通り、金利が低下する局面に債券価格が上昇する割合のほうが、金利が上昇したときに債券価格が下落する割合よりも小さい。米国債が大きく買われ、金利が低下する時には、モーゲージ債は国債ほど買われない。逆に今回のように米国債が大きく売られ、金利が上昇する時には、モーゲージ債は国債よりも売られる。


金利上昇幅が大きくても毎日少しずつ金利が上昇する限り、大きな問題は起こらない。しかしながら、大きな問題は、金利上昇のペースが速い場合、早期償還による将来のキャッシュフローの変化を予測することが難しいということだ。従って、思っていたよりも損失額が大きいということが起きてしまうことがある。


モーゲージ債を保有する投資家は保有している長期の米国債を売却するか、デリバティブを使って予想外に生じたデュレーション長期化を相殺しようとする動きだ。このことをコンベクシティヘッジと市場関係者は呼んでいる。1994年のFRBの連続利上げをきっかけとして始まったコンベクシティヘッジは強烈だった。


当時との大きな違いはFRBが大量のモーゲージ債を保有している投資家だということだ。FRBは、モーゲージ債を毎月400億ドル購入している。FRBはコンベクシティヘッジを行わない。従って、当時と比べると影響は小さいのではないかと思うものの、市場規模は約750兆円だ。


さすがに今回の金利上昇はちょっと早すぎる。週末の相場では10年債利回りが1.6%の水準で止まったことは良いニュースだが、この水準を抜けると、コンベクシティヘッジは加速するかもしれない。


繰り返しになるが、時間をかけて20-30bpの金利上昇があってもそんなに心配する必要はない。5年債の金利上昇が加速してきた。来週5-10年債の金利が更に10-20bp上昇するようなことがあると株・リート・ハイイールドの債券に売り圧力がかかる可能性が高い。


最後に今回の金利上昇を主導しているのは実質金利の上昇であることを忘れてはいけない。今年のアメリカ経済は5%を超える成長と予想する向きもいる。東京市場のボラティリティも上昇してきた。日米欧の中央銀行の対応に要注目!





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