篠原金融塾 これからの世界経済と日本

今後の世界経済の行方を予測するうえで、参考にすべき過去の実例がないことが、その予測を非常に難しいものにしている。新型コロナウイルス感染症の拡大を阻止すべく人工的にモノ・ヒトの流れを止めて起こした人工的な景気後退が今回のコロナショックだ。そして、このコロナショックは、自然災害、テロなどとは大きく異なり、物理的に何かが破壊されたわけではないので、復興需要が存在しない。こんなことは誰も経験したことがない。

コロナショック前に殆どの先進国では国内に過剰在庫、過剰人員、過剰設備などの大きな不均衡は見当たらなかった。不均衡がないので、不況にはならない一方で、力強さもない景気拡大がだらだらと続いていた。景気を下支えするためには、世界中の中央銀行が超低金利政策を継続せざるを得ず、結果としてじゃぶじゃぶの過剰流動性を背景に金融資産は堅調に推移してきたが、結果として、様々な分野での分断の状況を生みだしてきた。新型コロナウイルスという未知の感染症の世界的な大流行に世界は動揺、景気は急速に悪化した。

5月に入り、世界的に経済は再開した。日本でも緊急事態宣言が全国的に解除され、ヒトの流れが再開した。ヒトの流れが再開すれば、そこにモノの流れがついてくる。そのニュースだけでグローバルに株式市場は支えられている。6月以降発表される経済指標には最悪期を脱したと報道されるものも出てくるだろう。

問題はこの先だ。新型コロナ第2波の懸念が消えない中、米中関係は悪化している。米国では、白人警官が黒人男性を死なせたことをきっかけに暴力的な抗議デモが全米に広がっている。トランプ米大統領は、州知事らに、州兵を動員して「警察当局の圧倒的な存在感」を作るよう求めている。そして、そのいう行動を取らない場合は米軍を派遣する意向を表明した。米軍を国内の治安維持のために派遣するとすればまさに緊急事態だ。

こんな状況でも各国の異次元金融・財政政策により、金融資産は支えられている。私は、ここから先はどちらかと言えば世界的なデフレを心配しないといけないような状況になるのではないかと感じてはいるものの、正直デフレを心配しないといけないのかインフレを心配しないといけないのかもよくわかっていない。

コロナショックを受けて、需要減から原油価格が下落、需要が思ったように戻ってこなければ、デフレが心配だ。引き続き原油価格が低迷、アメリカ経済がデフレに陥るとすれば、FRBは否定しているものの、マイナス金利政策の導入を検討するかもしれない。

ブレグジット、トランプ米大統領の登場などで自国第一主義が台頭、政治的にはグローバリゼーションの巻き戻しの動きが見られていた。経済的には米中通商摩擦などで混乱は見られたものの、グローバリゼーションの動きが止まる気配はなかった。グローバリゼーションとは経済的には効率化の歴史だ。世の中が効率化すると物価は上がらない。従って、グローバリゼーションは、物価で考えると明らかにデフレ的である。

今後各国政府は、感染症と闘うために、自国民の安心と安全を第一に考えるだろう。従って、貿易、観光に関連するアクティビティーは、引き続き何らかの規制により、制限されることが予想される。モノ・ヒトの移動は引き続き限られ、効率性を求めグローバリゼーションを推し進めてきた企業・個人の行動が変わってくる。需要減が継続するのであればそれはデフレ的であるが、仮にサプライチェーンの分断などから供給減の状況が作り出されるとすれば、経済的にも非効率的な動きとなり、インフレ的な世の中になってもおかしくない。

例えば、マスクだ。その6割を中国からの輸入に依存していた日本では、中国が海外への輸出を止めたことから、供給不足となり、その値段は急騰した。現在は中国からの輸入が再開し、加えて日本国内での生産も増え、落ち着きを取り戻しているが、今後しばらくの間、世界的な需要が減少することはないだろう。仮に、第2波がやってくれば、需要増から価格は再び上昇に転じるだろう。それまでに国を挙げてちょっとした買い占めが起きても十分な供給量を維持できるようになっていれば話は別だが、とても非効率なことを強いられることも考えられる。

飲食店でもソーシャル・ディスタンシングを実施するためにレイアウトを変更したり、座席数を減らしたり、安全対策に今まで以上にお金をかける必要が出てくる。非効率的な店舗の運営を強いられる。デフレに慣れ親しんだ日本では値上げは難しいのかもしれないが、この安心・安全のコストは、世界的には徐々に消費者に転嫁されることになっていくだろう。

日本ではインバウンド需要に注目して様々なビジネスが展開されてきた。日本における成長産業だと言われてきたホスピタリティ業界が現在苦しんでいる。ヒトの流れを人工的に止められたので、どうしようもない。短期的には、値下げをしてでも人に来て欲しいという意味ではデフレ的なのかもしれないが、中長期的には低価格重視という時代から、安心・安全のためにはお金を払うという時代に変わっていく可能性もある。デフレで苦しんできた日本にとってはチャンスだ。

仮に日本の飲食店、ホテルなどが今まで以上に安心・安全を重視し、高い付加価値を提供、値上げを実施できる状況になるとすれば、日本経済の先行きは明るい。逆に値上げは消費者には受け入れられず、今まで以上に努力し、今までと同じ価格でサービスを提供せざるをえないとすれば、ここからの景気回復のペースは思っている以上にゆっくりとしたものになるだろう。

今後の世界経済に大きな影響を与えるニュースは「ワクチン、若しくは治療薬の開発」だ。一気に問題は解決、世の中は何事もなかったように動き出すだろう。そうなったら株・不動産などは上値を追う展開になる。

それまでは、モノ・ヒトの流れが戻りだすものの、景気回復はゆっくりとしたものになるだろう。現時点の経済指標を見る限り、既に世界経済は、戦後最悪の状況だが、中央銀行が流動性を供給し続けることに加え、積極的な財政政策により、世界経済は支えられている。仮に年内どこかのタイミングで第1波と同じ対応をしないといけない状況になるとすれば、世界大恐慌は避けられない。そうなってしまったら、財政赤字とか議論している暇はない。各国ともお金を突っ込むしかない状況になる。

しかしながら、第2波に対応する為に外出自粛若しくは外出禁止を行わないといけない状況は何としても避けたいとどの国のリーダーも思っているはずだ。従って、経済面をより重視することから、第1波と同じ対応になると考えるのは経済的には悲観的過ぎるだろう。

それでも、どこかの地域で第2波が来たということになれば、政治的な自国第一主義は国民の理解を得られるため、当然入国制限などは直ちに実施することになり、世界的に引き続きヒトの動きは限定的になる。それまでに「ワクチン、若しくは治療薬の開発」が出来れば素晴らしいが、こればかりはわからない。

日本では2053年に人口が1億人を下回ると言われている。人口が減れば需要は減少する。政策当局者にとっては、この人口減少に伴う需要減をどう補うかが重要なテーマだったが、新型コロナという別の要因で需要減が一気にやってきた。2065年には約8,000万人、2115年には約5,000万人に人口は減っていくと言われている。人口が急速に減少していく日本にとって、自国第一主義は経済的に効果的な政策だとは到底思えない。

従って、インバウンド需要に注目してきた日本の政策は間違っていなかったと思う。だからこそ、今回のコロナショックの影響は深刻だ。日本のスキーリゾートは多くの外国人観光客をひきつけてきた。仮想空間と現実空間を結び付けていくうえでSNSは大きく貢献してきた。現実空間の魅力を高め、それを仮想空間でプロモートしてきた日本。今のように人々が仮想空間から出てこない状況を予想することは出来なかった。日本という現実空間に外国人観光客が戻ってくるには相当の時間を要するだろう。

それでも日本という国は、新型コロナウイルスの感染拡大を防いだ世界でも数少ない国なのだ。我々は、「安心・安全・清潔」という日本の素晴らしさを世界にもっとアピールすべきだと思う。世界経済が動き出した以上、再びインバウンド需要を取り込むことは重要な課題であり、私は日本のホスピタリティ産業は大復活を遂げると信じている。

そんなことは無理だという人の方が今は多いだろう。私たちがこれから生きていく世界は大きく変わったのだ。これからはウイズコロナだという声も多いだろう。このような意見に科学的に反論することは出来ない。それでも、世界中そんなに悲観論者ばかりではないと私は信じている。少なくともこれからの人生を閉じこもって生きていきたいと考えている人はいないだろう。引き続き楽しみたいと考えている人の方が圧倒的に多いはずだ。

仮に日本が需要減に対して供給減で対応するとしたら、日本の経済力は間違いなく低下していく。インバウンド需要に期待しないとすれば、どんどん人口が減少していく日本は、一体どこに需要を求めるのか?

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