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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

篠原金融塾 雑感 ~新型コロナウイルスと世界経済~

今回の新型コロナウイルスのような感染症、自然災害、そしてテロはその世界経済に与える影響は一時的であることが多い。今回はどうだろうか?


ウォールストリートジャーナルのGreg IP氏は以下のように述べている。


「歴史的に、感染症の流行による混乱が国内総生産(GDP)に大きく影響したことはない。米議会予算局(CBO)がカナダの研究を引用してまとめたところでは、1918~19年のスペイン風邪の流行では世界で最大5000万人が死亡し、米国の死者は67万5000人に上ったが、1918年の米GDPはわずか0.5%押し下げられただけだった。1957~58年、1968~69年のインフルエンザ流行の影響はさらに小さかった。 今回は恐らくその限りではない。日がたつにつれ、感染拡大によるサプライサイドの混乱に需要側の影響が拍車を掛けている。当局や企業、個人が感染を回避するために取る予防的措置の影響だ。」


同氏は、「FRBが新型コロナウイルスから米経済を救うことはできない。」と言う。


「理由は二つある。 第一に、感染拡大によるサプライチェーン(供給網)の混乱で部品が調達できない工場を再稼働させたり、不安にかられた旅行者を飛行機に乗せたりすることは、FRBにはできない。第二に、こちらの方がより重要かもしれないが、中央銀行は景気循環への対応能力を失いつつある。」


気になるのは中央銀行が景気循環への対応能力を失いつつあるというところだ。


リーマンショックの混乱から世界経済を救うために日米欧の中央銀行は、民間のレバレッジの解消を中央銀行のバランスシートの拡大で補った。結果として、世界中に過剰流動性が溢れ出し、金融市場をサポートした。本来であれば景気はV字回復し、インフレ率が急上昇してもおかしくなかったが、実際には先進国の経済成長は緩慢でインフレ率の上昇を心配する必要がない世の中となっている。


何故だろう?


同氏は、「金融危機以降は、生産性の伸び低迷や人口高齢化、リスク回避といった構造的要因が世界の経済成長とインフレを抑制し、中銀にとって利上げは不可能ではないとしても困難になった。ECBと日銀は政策金利をマイナス圏に引き下げた。FRBは18年に短期金利の誘導目標を2.25~2.5%に引き上げたが、19年には世界的な景気減速と貿易戦争を受け、1.5~1.75%へと3回の利下げを余儀なくされた。FRBは3日、政策金利を50ベーシスポイント(bp)引き下げた。」と続ける。


先進国は財政赤字が拡大し、景気押上げには金融政策に頼るしかない状況が続いている。マネタリストたちは徐々にMMT理論を受け入れ始めているが、MMT理論の本を何度読んでも私には、問題を先送りしているとしか思えない。間違っていると思う。財務省が債券を発行し、中央銀行が貨幣をすって購入する。財政赤字は制御不可能なレベルに増えていく。これを先送りと呼ばずに何を先送りと言うのだろうか?積極的な財政政策と金融政策でジャブジャブに資金を供給することにより景気が回復するのであれば世界経済は超好景気になっているはずだ。


今や世界経済は金融政策という薬でごまかしながら生き延びている状況だ。Society5.0という世の中が到来し、AI革命により生産性が爆発的に向上し、世界経済の水準を押し上げることを待っている。この取り組みに失敗するとどんどん強い薬を投入しないといけなくなる。


米国債の水準(3/6 13:00東京時間)は以下の通りだ。


2年債 0.50%

3年債 0.52%

5年債 0.59%

7年債 0.73%

10年債 0.82%

30年債 1.43%

10年インフレ連動債 -0.59%


随分前の日本国債のイールドカーブと似てきたような気がするのは私だけだろうか?数年前にはアメリカの日本化現象をジャパニフィケーション・ジャパナイゼーションという言葉を使って表現するエコノミストがいたが、まさに今各国中央銀行の金融政策を受けて世界中の国債市場が日本国債化しているような状況だ。


今後金融政策で出来ることは少ないが、ジャブジャブの過剰流動性が中小企業・個人事業主まで流れるよう、金融業界で働く人は力を注ぐべきだ。

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