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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

篠原金融塾 米連邦準備制度理事会(FRB)の政策決定の枠組みが変更された!

FRBの使命は物価の安定と完全雇用を実現する事だ。それはこれからも変わらない。しかしながら、それを実現する為に今後は軸足を完全雇用の実現に移すようだ。ジェローム・パウエルFRB議長が27日のジャクソンホール会合での講演で、FRBが新たな戦略を講じる方針を全会一致で承認したと公表した。

今後政策を実施するに当たり、1、average inflation targetingを導入する事、2、完全雇用については、the shortfalls of employment from its maximum levelの評価を行うという。

どういうことか?

パウエル議長は、期間平均で2%のインフレ率を目指すと表明。インフレがオーバーシュートする期間を容認する、若しくはインフレ率が2%を下回る期間の後は、2%を上回ることを目指すということだろう。また、雇用については、従来は「最大レベルからの偏差」を重視するというのがFRBの考えだったが、今後は「雇用の最大レベルへの不足分」に基づき政策決定がなされる。

この変更は、現在の米国経済は、失業率が自然失業率を下回っても、過剰なインフレ高進を招くリスクは小さくなってきていることを示唆している。米国も人口増加率の伸びが減速、高齢化が進み、成熟してきたということかもしれない。

80年代後半からFRBの金融政策を追いかけてきた私にとっては、画期的な出来事だ。失業率が自然失業率を割り込むような場合には、金融緩和策を徐々に解除することを前提にトレードしてきたし、FRBは繰り返しそのアプリーチの正当性を主張してきた。失業率が雇用市場の過熱を示唆する場合、金融緩和からの出口戦略が後手に回ればインフレの加速をもたらしかねないと考えてきた。”FRB is behind the curve” であり、後手に回っていると市場が認識すると米国債はイールドカーブがスティープしながら大きく売られ、金利は上昇したものだ。

今後の政策決定に際しては、1)インフレ率が2%を上回ったから、2)自然失業率(現在は4.1%と考えられている)を下回ったから、インフレを予防するために直ちに金融引締政策を実施するのではない。

今回の政策決定の枠組み変更を受けて米国債金利はどのように動くのだろうか?


昨日の市場の反応は、株が買われ、金利はベアスティープ、そしてドル買い。そうは言ってもFRBによる金融緩和策が長期化すれば、インフレ懸念は顕在化し、金利は上昇すると考えている債券トレーダーがいるということだ。

8/21の米国10年債は、0.64%。名目金利=実質金利(≒期待収益率)+物価上昇率(期待インフレ率)に基づき、分解してみると、

名目金利(米国10年債)0.64% = 実質金利(米国10年物価連動債)-1.00% + 物価上昇率(期待インフレ率)1.64%。

現在の米国10年債は0.78%。

名目金利(米国10年債)0.78% = 実質金利(米国10年物価連動債)-0.97% + 物価上昇率(期待インフレ率)1.75%。

従って、講演後の米国債の金利上昇の主因は、期待インフレ率の上昇だということがわかる。この結果にはパウエル議長は満足しているだろう。

今回のFRBの政策決定の枠組みの変更についてどう思うか?

私は、この決定が正しいかどうかはわからないが、新型コロナで傷ついた米国経済を立て直すために、FRBが動いたということ自体が素晴らしいと思う。さすが世界一の中央銀行だ。これから経済学部で学生たちが学ぶ内容も変わってくるかもしれない大きな出来事だと私は思う。さあ、世界中の経済学者、エコノミストと言われる人達の出番だ。

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