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執筆者の写真篠原竜一 代表取締役社長

経団連によるSociety 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第一次提言

一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は、7/10にSociety 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第一次提言~with コロナ時代の教育に求められる取組み~を公表した。


経団連のホームページを見ると、Society 5.0とは何かを以下のように説明している。

“Society 5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会という意味で、政府の第5期科学技術基本計画(2016年1月)において初めて提唱された考えです。当初は日本の科学技術政策の中で生み出された考えでしたが、わが国そして世界が目指すべき未来の社会像として、世界中に広まりつつあるコンセプトであり、政府のみならず産業界や学術界も一緒になって取り組みを進めているものです。

現在、AIやIoT、ブロックチェーンなどの革新的なデジタル技術が進展し、それらがデータを核に駆動することで、社会のあり方が大きく変わろうとしています。このデジタルトランスフォーメーション(デジタル革新)の波は止まることなく、人類社会が次のステージへ向かうきっかけとなると考えられます。

科学技術基本計画では、Society 5.0を「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(超スマート社会)」と位置付けました。”

“経団連は、第5期科学技術基本計画策定に向けたSociety 5.0のコンセプト作りから議論に参加し、推進に向けたさまざまな議論や提言活動を進めてきました。

2018年7月には、中西会長を座長とする「未来社会協創会議」を立ち上げてSociety 5.0実現に向けた諸課題を包括的に議論し、世界に打ち出すコンセプトを深化させるとともに、実現に向けたアクションプランを整理し、提言「Society 5.0 -ともに創造する未来-」として11月に公表しました。

提言では、これまで「超スマート社会」とされてきたSociety 5.0を「創造社会」と呼称することを提唱しました。Society 5.0で目指すべき人間中心の社会では、利便性や効率性の実現を主目的とするのではなく、デジタル技術・データを使いながら、人間が人ならではの多様な想像力や創造力を発揮して、社会を共に創造していくことが重要であると考えています。Society 5.0とは、創造社会であり、「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」です。”

文部科学省、経団連、教育関係者が使っているSociety5.0とは、これから創っていく新しい社会のことだ。これは、その新しい社会で生きていく力をつけていくための教育についての経団連の提言だ。懸念される新型コロナウイルスの第二波に備え、新型コロナウイルスとともに歩む時代(with コロナ時代)において、オンライン教育と学校での対面形式の教育とのハイブリッドな学習環境の構築による新しい教育様式 を確立するために、比較的、短期的に求められる教育改革の取組みを中心に「第一次提言」として取りまとめている。

中身を見てみよう。

新しい社会で求められる能力と資質は以下の通りだと説明している。

Society 5.0 の人材には、リテラシーとしての能力(数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、外国語コミュニケーション力など)、論理的思考力と規範的判断力、課題発見・解決能力、未来社会を構想・設計する力と高度専門職に必要な知識・能力が求められる。

経済発展と社会的課題の解決の両立を目指す、人間中心の社会 であるSociety 5.0 では、性別、人種、国籍を問わず、さまざま個性や能力をもった人材が協働して社会課題を解決し、オープンイノベーションを通じて新たな価値を創造することが求められる。そのためには、異文化や多様な背景を持つ集団においてリーダーシップを発揮できる人材を育成することが重要である。また、先を見通せない予測不可能な時代(VUCA)において未来社会を構想・

設計する際には、失敗を恐れず果敢に挑戦する姿勢や自己肯定感も欠かせない。

こんなにすごい能力や資質を求められるSociety5.0という社会は、生きていくのが大変そうだ。

経団連はそんなことは言っていないが、新しい社会では、個々人の能力や資質によって、格差は確実に広がっていきそうだ。そしてこれからの教育は根本的に見直す必要がでてきているのだろう。今までのようなカリキュラムに基づき、毎日ワークシートに取り組み、テストで満点をとるための訓練ではSociety5.0という創造社会で生きていくのは難しそうだ。

教育の方向性としては、ポイントが4つ掲げられている。第一に、異文化を理解するとともに、異なる価値観や個性を持つ他者と協働する機会を増やしていくことが求められる。そして「誰も取り残さない」教育を推進し、理解度や学習ペースに関わらず、あらゆる児童生徒が学ぶ楽しさを知ることができれば、誰もが Society 5.0 で活躍する人材となる可能性が生まれる。所謂Diversity & Inclusionという考え方だ。

第二に、学校現場における EdTech の活用により、場所・空間に制約されず、日本全国津々浦々の地域で、学校と家庭・学習塾などが機能的に連携し、オンラインによる質の高い教育を提供することだ。

第三に、教科教育を EdTech の活用を通じて効率化することによって、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた探究型学習(PBL 授業、チーム学習、調べ学習)により多くの時間を充てることだ。探究型学習においては、社会課題など答えのない問題に対してチームで取り組むことで、対話・コミュニケーション能力を育むとともに、各教科で得られた知識を相互に関連付けて自分なりに考えることを通じて主体的で深い学びの実現や自律の精神の養成が期待される。先生は座っていれば良い。極端に言えば、先生正解は何ですか?と生徒に問われたら、先生はこう答えればよい。「正解が何かは先生にもわかりません」。答えはひとつではないという教育だ。

第四に、リカレント教育の充実だ。学校を卒業して就職したら、年功序列、終身雇用制度の下で安心して働くという時代ではないということだろう。技術や知識の陳腐化が激しく、求められる能力や企業の形態も刻々と変化する中、産業構造の変革に応じて円滑な労働移動を促進する。労働市場のセカンダリーマーケットが今後大きくなっていくということだ。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、全国すべての小中高等学校等が臨時休校を余儀なくされた。臨時休校中、ICT やリモート教育に十分、対応できた公立学校は少なく、日本の教育機関におけるデジタル化が諸外国と比べても大きく遅れている現状が明らかとなった。懸念されている新型コロナウイルス感染症拡大の第二波に備えるためにも、コロナと共に歩む時代の新しい教育様式を早急に実現する必要があり、経団連は以下の提言を行った。

OECD「国際教育指導環境調査(TALIS)2018 年報告書」によると、日本は、学校での課題や学級活動に ICT を活用させている教員の割合は、TALIS 参加 48 か国中最低レベルの水準であることが示されたと指摘している。最低レベルだ。臨時休校中に双方向のオンライン教育を実施した学校は全体のわずか5%だという。政府は、世界に後れをとっている学校教育の ICT 化に最大限のスピード感をもって取り組む必要がある。

経団連は、日本の義務教育における年齢主義・履修主義と修得主義についても着目している。知識基盤社会である Society 5.0 の実現を目指す中、基盤となる学力が身についていないのにも関わらず、小学校や中学校を卒業していく子供たちが一定割合存在する。彼らが基礎学力を身につけていないことにより将来就職や仕事で苦労することを踏まえれば、一定年限、科目毎の総授業時数に基づく所定の教育課程を履修しさえすればよいとする「履修主義」の考え方から、目標に関して、一定の成果を上げることを求める「修得主義」の考えをより重視した教育を進めることが重要であると提言している。

この点については、考え方はその通りだと思うものの、やり方には気をつける必要があるだろう。授業への参加態度、小テスト、エッセイ、課題提出、中間テスト、期末テストなどで、バランスよく評価することが大切であり、テストで高得点を取ることだけが目的となってしまうようでは本末転倒であり、賛成できない。ワークシートをガンガンやってどんどん先の学年まで進める。訓練を受けているのだから点数はとれるようになる。飛び級させるために塾で今まで以上に正解のある問題について取り組む訓練では、創造社会でリーダーシップを発揮することは難しい。

同じ学年でも、学習進度の速い児童生徒と遅い児童生徒がいることを踏まえれば、デジタル教材などを活用して、一人ひとりの児童生徒の理解度に合わせて、学習ペースの速い子供は到達度に応じて上級学年の内容を学べるようにするとともに、学習につまずきがあれば、つまずいた下級学年の内容から改めて学べるようにすることは重要であり、学習指導要領に基づく履修内容にこだわらず、学習者個人の学習ペースにあわせたサポート体制の構築が必要であると提言している。

賛成だ。この点については、保護者の理解がとても重要になる。9月入学の米国では8月生まれが一番幼い。リーダーシップを発揮させたいので、学年を一年遅らせるということは特別なことではない。また、その学年の内容を理解しないまま進級するくらいなら、留年してしっかり勉強をさせる保護者も少なくない。子どものことを考えるのであれば、成長の早い子は飛び級、成長の遅い子は留年を選択できる仕組みを整え、生徒の理解度に合わせたサポートを行っていく体制を作っていくべきだろう。

With コロナの時代には、オンライン学習でこそ効果的な学びと、学校というリアルな場で、他者と協働しながら行うことが効果的な学びとの最適な形での組み合わせによるハイブリッドな学習環境という視点から教育過程を検討していくことが求められると主張する。また、それに対応できる教員の養成・採用・研究も喫緊の課題である。

その通りだと思う。生徒が中心になって学んでいく新しい教育とはいっても誰が教えるのか?先生だ。先生にとっても新しいことだらけで物凄いチャレンジになる。その先生に対するサポート体制の構築なしには教育改革は進まない。

Society 5.0 では、性別、人種、国籍を問わず、さまざま個性や能力をもった人材が協働して社会課題を解決し、オープンイノベーションを通じて新たな価値を創造することが求められると考えている経団連だが、今回の提言を読む限り、9月入学についてはあまり前向きではないようだ。何故だろう?

通年採用が始まり、労働市場のセカンダリー市場も拡大していく。外資系企業のサマーインターンシップは6月から8月に実施され、異文化や多様な背景を持つ集団の中でリーダーシップを発揮しようと、世界中から多くの学生が参加している。彼らの失敗を恐れず果敢に挑戦する姿勢や自己肯定感の高さは日本人学生にも刺激になるはずだ。折角の機会を4月入学が理由で逃している学生が多いのは残念だ。

また、高大接続の改善・大学入試改革、企業による学校へのサポートについても多くの提言を行っている。

今回の経団連の提言は、なるほどと思うことが多いが、経団連は日本の企業の採用についてもっと提言したほうが良いと思う。日本の企業の採用がSociety5.0で求める能力・資質を重視することで、教育改革は進んでいくはずだからだ。

昔ほどではないが、一般的には日本の学生は勉強しない。それは仕方ない。学生のせいではなく、企業の責任だ。何故なら、日本の企業が採用に際して大学名は重視するものの、成績を重視しないからだ。


アメリカの大学生は勉強する。アメリカの企業が学校の成績(GPA)を重視するからだ。GPAが良くなければ一次選考で通らない。


日本の企業の採用には大きな問題があることに気がついていない人が多い。そんなことはないと思うのであれば、学生の大学名と氏名を黒塗りにした写真なしの履歴書と高校・大学の成績表に基づき、書類選考をしてみると良い。結果は大きく変わるはずだ。より多くの女性と成績の良い無名大学の学生が書類選考を通過するはずだ。面接でも、大学名は聞かないほうが良い。どこの大学なのかよりも、何をどんなふうに大学で勉強し、どんなことに情熱を持って取り組んできたのか、そして、これから何をやっていきたいのかの方が重要なはずだ。


日本の企業が大学名・コミュニケーション能力・キャラクター・そして経験を重視する採用から、学生の成績、学生時代に情熱を持って学んだこと、を軸に採用するようになれば、日本の学生はもっと勉強するようになるはずだ。

そうなると大学も大変だ。より良い教育を提供しなければ学生は集まらなくなる。初等中等教育に加え、高等教育でSociety5.0という社会を創造していく人材をどうやって育成していくかを学生にも企業にもアピールすることが必要になる。大学の授業では、事前に毎回100ページほどの専門書を読み、それについてディスカッションし、次回の授業までに論文を提出するように変わっていく。企業から信用される教育を行う大学に変わっていかなければ、学生は集まらなくなる。企業の採用が変われば、学生も大学も変わると私は思う。

新型コロナウイルスの感染拡大で、皆一度立ち止まり、これからの学び、これからの働き、これからの生活、様々なことを考えたはずだ。大変な時代がやってきた。日本という国がこれからも発展をしていくためには、学生・保護者・大学・企業が新しい社会に向かって一致団結して課題に取り組む必要がある。そうすれば教育改革は一気に加速し、Society5.0で世界を舞台に活躍するグローバルリーダーを育成することが可能になるはずだ。

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