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執筆者の写真篠原竜一

篠原金融塾 グローバルマーケットウィークリー 3/11/2022

2月のアメリカのCPIは、前年同月比7.9%上昇と約40年ぶりの高水準。またユーロ圏の2月のCPIも同5.8%上昇と過去最大の伸びを記録しており、ロシアのウクライナ侵攻を受け、エネルギー、商品、並びに食品の価格が上昇しており、インフレは一段と加速する可能性が高いが、ウクライナ危機からの飛び火が止まらない。


そんな中、ロンドンのニッケル市場でとんでもないことが起きた。問題が発生したのは8日のロンドン金属取引所(LME)だ。ニッケル価格がほぼ倍に値上がりしていたが、LMEは、その日の売買9,000件余り、金額にして約40億ドル相当をすべて取り消すことを決めたのだ。戦争時に金融商品の取引を行うことは博打と同じであり、可能な限り避けるべきだと考える私だが、それとこれとは全く異なる問題だ。


取引所は価格を間違えたり、金額を間違えたり、明らかに過誤による取引については取引を取り消すことはあるが、今回のケースは全く異なる。LMEは、追加証拠金を手当て出来なかった市場参加者を助け、正当な利益をトレーダーから奪うという決断を行ったと報道されている。本当であれば、究極のモラルハザードだ。残念ながら、今後LMEはプロの投資家から避けられることになるだろう。


グローバルマーケットは、今後もウクライナ情勢に一喜一憂する展開が続くものと思われるが、アメリカがロシアに対する制裁を強化していることに市場は注目している。


バイデン米大統領は、G7、EUと共に、ロシアとの正常な貿易関係を打ち切ることを発表する。アメリカは、すでにロシア産エネルギーの輸入禁止している。米カード最大手のビザとマスターカードは、ロシアでの業務を停止すると相次ぎ発表、暗号資産(仮想通貨)の制限案も浮上している。


制裁強化の結果がどう影響するかはわからないが、停戦どころかロシアによる攻撃はより激しくなっている。専門家は、ロシアは軍事施設をターゲットに短期決戦でキエフを制圧する方針だったが、既に軍事侵攻から2週間たった今でもキエフを制圧できないことから、大都市を包囲する方針に変えたと説明している。ロシアが停戦に合意し、軍事侵攻をやめるためには、ウクライナがロシアの要求(非軍事化、中立化、現政権の退陣、クリミア、東部2州の独立承認)を全て受け入れることが必要であり、ウクライナがそれを受け入れることは現時点では想像できない。


従って、ロシア対ウクライナの全面戦争の可能性が高まっているとしか言いようがない。こういった状況に対し、アメリカ中心に西側諸国が出来ることは軍事的にはウクライナに対する後方支援とロシアに対する経済制裁だけというのがなんとも歯がゆい。


そんな中、世界中で物価が大幅に上昇している。ECBは、ユーロ圏の物価上昇率が6%に迫る中、大規模な債券購入プログラムを段階的に縮小し、これまでの予想より早い9月までの終了を目指すことを明らかにした。ECBのこの予想外の決定で欧州国債金利は大きく上昇している。ECBもいよいよ利上げを検討することになる。


FRBは今週FOMCを開催するが、市場では25bpの利上げが実施されるとの見方が広まっている。正直FRBは大きく後手に回っていると思われ、連続利上げになる可能性が高まっているのではないだろうか?先週米国債金利も欧州債金利同様約30bp上昇しているが、まだまだ金利上昇は始まったばかりだ。


先週はWTIの先物価格が一時1バレル=130ドルを示現した。また、北海産のブレント原油の先物価格も、一時1バレル=140ドル近くまで上昇した。その後値を下げているものの、今後もウクライナ情勢に一喜一憂するボラタイルな展開が続く。


中長期的には、ウクライナ情勢がどのような展開となろうが、ロシアに対する経済制裁の影響から、エネルギー価格、商品、食品価格が当面の間高止まりする可能性が高い。地政学リスクに起因する悪いインフレ率の加速に対し中央銀行にとって金融政策のかじ取りは難しくなっている。何はともあれ、今後中央銀行によるインフレ退治が始まるが、先進国で労働力人口が減っていくというこれからの人口動態の変化を考えるとインフレ退治もデフレ退治同様容易ではない。日本ではデフレからの脱却が完了しない中での物価の上昇であり、その対応は非常に難しい。





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