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Society 5.0 に向けた人材育成  第3回

更新日:2019年4月12日

~社会が変わる、学びが変わる~

今回は新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォースでの議論を見てみよう。


義務教育

義務教育に求められるのは、常に流行の最先端の知識を追いかけることではなく、むしろ、学びの基盤を固めることであると 考えられる。


家庭環境の変化や情報化の進展の中で、特に義務教育段階の子供たちの読解力に課題があるとの指摘もある。社会が変わり、働き方も変わっていく中、日本人の基礎的読解力が仮に低下した場合、我が国の産業の品質やサービス の低下につながりかねない。子供たちがそれぞれの学校段階における教科書を 理解できるようにし、生涯学び続けることができるための基礎的読解力を身に付けさせることは、公教育の責務である。


一方、学校や学びの在り方に関しては、一元モデル、つまり「○○だけ」構造 からの脱却が求められる。 「教職員だけ」による学校経営から、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、部活動指導員等の専門スタッフと協働した「チーム学校」へ。 「教師だけ」が指導に携わる学校から、教師とは異なる知見を持つ各種団体や民 間事業者をはじめとした様々な地域住民等とも連携・協働し、「開かれた教育課程」を実現する学校へ。「同一内容だけ」児童生徒に教える教育から、「個々人の特性」に応じた教育へ。「紙だけ」で指導や運営が行われる学校から、ICT など 先端技術も活用した学校へ。「学校だけ」しか教育の場として認められなかった 時代から、フリースクールや地域未来塾等「学校以外の場」での教育機会が確保 される時代へ、それぞれ転換が求められる。


これに応じて「教師」の役割も当然変化することになるが、「教育は人なり」 と言われるように、学校教育の直接の担い手である教師の果たすべき役割は、今後も引き続き極めて重要である。Society 5.0 の学校教育においては、「教師」 にはこれまでの児童生徒を教え導く役割に加え、今後、学びの支援者という役割が付加されることになる。


こうした多元モデルにおいて鍵となるのは、認知科学やビッグデータ等を活かした「教育や学習を科学する視点」である。 一元モデルで一定の成功を収めてきた我が国の教育においては、経験や勘が重視され、教員養成や研修においてもこれが伝承されてきた。 一方、多元モデルの教育においては、Edtech13等の導入により、活用できるツールの選択肢が広がっていく。こうした時代においては、教育方法や手段を決定する際の拠り所となるのは、認知科学やビッグデータの活用等、「教育や学習を 科学する視点」であり、そういった視点によって、単なる費用対効果論を乗り越える、真の EBPM(Evidence-Based Policy Making)が実現される。そのためには、 現在は、国、地方公共団体、民間事業者等の様々な主体が別個に保有しているデータを集約し活用できるようデータ規格の標準化やデータのオープンソース化 を図っていくことが必要である。


高等学校

現行の高等学校は約 99%の生徒が進学する教育機関となっており、義務教育を終えた子供たち一人一人が Society 5.0 を生き抜くために必要な力をそれぞれ身に付けることができるような場でなくてはならない。


学校だけで教師だけが一方的に教えるような教育活動が転換され、多様な選択肢の中で、自分自身の答えを生徒が自ら見いだすことができるような学習が中心となる場へとなっていかなければならない。生徒一人一人の興 味や関心に沿って、学校だけにとどまらず、地域社会、企業、NPO、高等教育機 関といった多様な学びの場を活用し、異なる年齢や背景を持つ相手とコミュニ ケーションしながら「社会に開かれた教育課程」による学びを進めていく。 こうした学びを通じて、教科の力はもちろん、異なる考えを持つ人に対して素直な眼差 ま な ざ しをもち、先に述べた Society 5.0 において必要とされる資質・能力 を、すべての生徒が身に付けることができるようにすることが求められている。

また、こうした中で、生徒がしっかりとそれぞれの地元の地域を学ぶこともますます重要となる。地域には、それぞれ生きた課題が数多く存在するため、生徒の地域への興味や関心を深め、地域の課題を探求する重要な機会を提供できる。 しかし、現状においては、生徒が地域との関わりの中で世界観を広げていき、その後の学びや進路に影響を受けるような活動が十分に行われているとは言い難い。Society 5.0 を迎える今後は、生徒にとって最も身近である地域と学校とが手 を携えながら、体験と実践を伴った探求的な学びを進めていく必要がある。こう した学びが学校生活を一層充実したものとし、自らの特性を踏まえた将来の進路と真剣に向き合う契機となるであろう。


これは同時に、各地域への課題意識や貢献意識を持った人材の育成にもつな がる。こうした人材がそれぞれの地域で地域ならではの新しい価値を創造する ようになれば、Society 5.0 を地域から分厚く支えていくことにつながっていく。 生徒たちが多様な学びを行っていくためには、様々な専門学科等において、多様な主体と連携し、彩り豊かな特色のある教育課程が提供されなくてはならない。

あわせて、思考の基盤となる STEAM 教育を、すべての生徒に学ばせる必要がある。こうした中で、より多くの優れた STEAM 人材の卵を産みだし、将来、世界 を牽引する研究者の輩出とともに、幅広い分野で新しい価値を提供できる数多 くの人材の輩出につなげていくことが求められている。


高等学校卒業から社会人時代

学ぶ内容も学びのスタイルも変化していく中で、大学は、学生が身に付けるべき能力を明らかにした上で、各大学自らが授与する学位に見合った カリキュラム(学位プログラム)をデザインしていくことになる。


我が国の四年制大学の現状をみると、人・社系5割(30 万人)、理工系2割(12 万人)、保健系1割、教育・芸術系等2割となっているが、今後、学生が所属する学部等に関わらず、教育における STEAM やデザイン思考の必要性を踏まえ、 学生が必要とする教育をいかに提供していくか、各大学の工夫が期待される。


また、大学は、新しい技術を活用したアクティブ・ラーニングも積極的に取り入れ、教育の質の向上に取り組んでいくことが期待される。そして、学位授与に至る過程で、その学生が何を身に付けることができたかが、その後学生が活躍する社会において理解されるよう、可視化されていることが重要となる。 学生が社会に通用するような知識及び能力や、主体的に学び考える力を身に 付けるためには、大学教育の質的転換が重要であるが、そのためには、体系的で 組織的な大学教育を、適切な点検・評価を通じた教育活動の不断の改善に取り組 みつつ実施することが必要である。大学が本来持っている組織としての力を十分発揮できるよう、国は教学マネジメントの確立を一層進めていくべきである。


各大学は、上記のような学位プログラムの提供の工夫とともに、入学者選抜が、大学で学ぶ上での学力等を備えていることを真に確認する内容となっているか どうかについて、改めて見直すことが必要となる。とりわけ、AI や IoT を使いこなすために、必要な知識・素養を大学が提供するに当たり、学生がその内容を習得できる資質・能力を有しているかどうかについて、大学は、入学者選抜で適切に問うているかを改めて振り返り、必要な見直しを行うべきである。 このことが、大学で学ぶ前提として高等学校段階で履修しておくべき教科が 入試において問われないことや、高等学校教育における安易な文系・理系の振り分けの慣習を見直すことにつながると考えられる。また、狭義の学力だけでなく、 主体性や協働性、自己調整などのメタ認知能力、他者に対する共感等についても、 各学位プログラムの特質に応じながら、入学者選抜において問われるべきであろう。


今後、幅広く社会から支援される大学であるためには、教学、研究、経営と大学運営全般にわたって、これまで以上に社会に対してわかりやすく発信することが肝要であり、国は、各大学における積極的な情報公開を推進していくべきである。大学の経営環境は、大変厳しさを増しているが、これを教育の質の飛躍的 な向上に真正面から取り組むチャンスととらえ、国は積極的な大学の取組を後 押ししていくような財政措置を講じることが重要である。


今後の方向性の総括

すべての子供たちがすべての学校段階において、基盤的な学力の確実な定着 と、他者と協働しつつ自ら考え抜く自立した学びを実現できるよう、「公正に個別最適化された学び」を実現する多様な学習機会と場の提供を図ることが必要である。


学校や教師だけでなく、あらゆる教育資源や ICT 環境を駆使し、基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力や情報活用能力をすべての児童生徒が確 実に習得できるようにする必要がある。


高等学校や大学において文系・理系に分かれ、特定の教科や分野について十分に学習しない傾向にある実態を改め、文理両方を学ぶ人材を育成するよう、高等学校改革と大学改革、高等学校と大学をつなぐ高大接続改革を進める必要がある。 高等学校においては、文理両方を学び個々の資質・能力を伸ばすとともに、地域の良さを学びコミュニティを支える人材の育成を進めていくことが必要である。 大学においては、高等学校における文理分断の改善、社会ニーズ等を背景に、 文理両方を学ぶ教育プログラムの充実を図る必要がある。また、AI・データ科学 分野等の高度専門人材育成のための施策を加速させる必要がある。


異論はない。


教師だけが一方的に教えるような教育活動が転換され、多様な選択肢の中で、自分自身の答えを生徒が自ら見いだすことができるような学習が中心となる場へとなっていかなければならない。


その通りだと思う。


教師、生徒だけでなく、保護者、企業がどのように受け止めるのかが重要だ。




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